九品仏江戸時代の寺と城跡、昔ながらの商店街を散歩
- 和さんぽとは 和装で各地をお散歩する企画です。各地の名所、名跡、スポット、食事処などご紹介します。
日本の旅侍×「和と人の交流ちとせ」の企画「和さんぽ」。第二回は引き続き役者で殺陣の講師も務める島田勇矢さんと、東京都世田谷区の九品仏駅(くほんぶつえき)周辺を巡りました。
九品仏地区とは
世田谷区の九品仏地区は奥沢4丁目から8丁目と玉川田園調布1、2丁目から成り立つ小さな街です。東急大井町線の九品仏駅周辺は昔ながらの商店街が広がり、駅から離れると閑静な住宅街が姿を現します。「九品仏」の地名の由来となった九品仏浄真寺や、浄真寺から緑が丘駅まで続く緑道があり、自然も感じられます。
スタート地点の東急大井町線「九品仏駅」
東急大井町線「九品仏駅」は昭和4年(1929年)に開業した老舗の駅です。隣の自由が丘駅からは約600mと徒歩圏内だったりしますが、ここは電車に乗ることをおすすめします。
実は、九品仏駅は鉄道好きには有名な駅なんです。その理由は二子玉川寄りの1両のドアが開かない、いわゆる「ドアカット」があるため。東急大井町線は5両編成なのにホームは4両編成分の長さしかないため、1両分はみ出してしまうんです。すぐ横に踏切があるためホームが延ばせないという…。
ドアカットは不便なため、現在はその姿を消しつつあります。九品仏駅は東急線で唯一のドアカット駅なので、電車に乗る時は注意しつつドアカットを見学しましょう。
「九品仏」が守る緑豊かな九品仏浄真寺
九品仏駅から徒歩約5分。緑に囲まれた浄土宗の「九品山唯在念佛院淨眞寺(九品仏浄真寺)」が姿を現します。延宝6年(1678年)、徳川家綱の治世に浄土宗の高僧・珂碩上人により開かれた古刹で、現在の講堂などの配置は当時からほぼ変わっていないのだとか。
緑豊かな境内は清浄な空気が漂っており、身が引き締まるような気分になります。参道から総門を潜ったすぐ左には閻魔大王のいる閻魔堂があり、閻魔大王に奪衣婆、懸衣翁がにらみを利かせています。閻魔様と言えば「嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれる」とよく言われますが、「襟を正す」という言葉がぴったりな雰囲気のスポットです。
御本尊は釈迦如来。御本尊のある龍護殿(本堂)の対面に「上品堂」「中品堂」「下品堂」の3つの阿弥陀堂があり、なかには江戸時代に作られた高さ約2.8mの阿弥陀如来像が各3体、計9体祀られています。これが「九品仏」の地名の由来にもなっています。
なぜ「九品」かというと、仏教では信仰の深さにより極楽往生に九種類の等級(=九品)があるという教えがあるから。大きく上品・中品・下品(じょうぼん・ちゅうぼん・げぼん)に分かれ、それぞれ上生・中生・下生に分かれます。3×3で9品というわけです。ちなみにこの「上品」「下品」は「上品なしぐさ」「下品な人」などで使う「上品・下品」の由来にもなっています。
九体の仏像はそれぞれに3体ずつ安置されており、全て印相(手の指の形)が異なります。ぜひ見比べてみてくださいね。
城好きはチェック!「奥沢城」と鷺草伝説
もともと九品仏浄真寺のある場所には、中世に世田谷を統治していた吉良氏によって築かれ、家臣の大平氏が守る「奥沢城」がありました。天正18年(1590年)、豊臣秀吉による小田原攻めで北条氏が滅亡した際、吉良氏や大平氏は等々力に蟄居・潜居し、城は廃城となりました。境内を囲むように土塁の跡が残っていますよ。
奥沢城には鷺草(さぎそう)伝説が残っています。戦国時代、奥沢城主・大平出羽盛の娘の常盤姫は世田谷上州の吉良頼康の側室になりました。常盤姫は頼康に寵愛されるようになりましたが、それを妬んだ他の側室達は常盤姫をいじめ倒し、悪いうわさを頼康の耳に吹き込みます。やがて頼康から冷遇されるようになった常盤姫は自殺を決意。小さいころから可愛がっていた白鷺に遺書を結び付けて奥沢城に向かって放ちました。
ところがこの白鷺を頼康が射落とします。遺書を見た頼康は急いで城に戻りましたが、常盤姫は自殺した後でした。頼康は常盤姫を弔うとともに白鷺を奥沢城近くに埋めたところ、供養したところから草が生え、鷺が羽を広げたかのような白い花が咲きました。これが「鷺草」で、世田谷区の花にもなっています。7月から8月にかけて、境内の世田谷区立鷺草園でその姿が見られますよ。
手作り豆腐「毛利豆腐店」
九品仏浄真寺からのんびりと九品仏駅の方に戻ります。昔ながらの商店街を歩いてたどり着いたのが駅前にある「毛利豆腐店」。富山・佐賀県産の大豆で丁寧に手作りされた豆腐や油揚げは絶品です。特に100%にがりで作ったという「にがりもめん」がおすすめ。油揚げは皮が柔らかく、お稲荷さんにぴったりです。
夕方5時から販売している揚げ出し豆腐は専用のたれをかければすぐ食べられる一品。さんぽの際には島田さんが「めっちゃうまい」とペロリと平らげていました。
「飲める大福」 It Wokashi(いとをかし)東京店
続いて訪れたのが「飲めるほどに柔らかい」大福を販売している「It Wokashi東京店」です。300年以上続く三重県鈴鹿市の和菓子屋「小原木本舗大徳屋長久」の16代目による新ブランド「It Wokashi(いとをかし)」のお店で、「飲めるほどに柔らかい」新感覚の生クリーム大福を販売しています。メディアでも何度も取り上げられた有名店です。
これ以上柔らかい大福は作れない、極限までこだわったという大福は、一口食べると口の中でとろけます。凍るとアイス、半解凍でとろける口当たり、そして全解凍では本当に飲めそうなレベルでやわらかくなり、3つの楽しみ方ができますよ。和菓子好きという島田さんも「一番おいしかった」と太鼓判!
種類はベーシックな「粒あん&クリーム」に加え、「ごま&マンゴー」「いちご&ピンクペッパー」「抹茶&レモン」「烏龍&杏仁」「葡萄&ラム」と和洋折衷。おしゃれな箱にも注目です。
絶品クリーム生どら焼き「掌甘堂」
最後に訪れたのは、クリームたっぷりの生どら焼きで有名な「掌甘堂」です。2017年にオープンしたお店のオーナーはもともと洋菓子職人さん。「和と洋の融合」をコンセプトに開発したのが生クリーム大福「東京どらくれーむ」で、こちらもさまざまなメディアに登場しています。
材料の小麦粉は北海道の自然農法栽培で化学肥料不使用。卵はマリーゴールドをエサに加えたハーブ鶏のもの、砂糖にはサトウキビに含まれる微量成分を活かしたミネラルシュガーを使うなど、安心・安全にこだわっています。
東京どらくれーむは「つぶ餡」「抹茶あずき」「レーズン」「栗」「クリームチーズ」の5種類。このほかにも「東京和どら」シリーズ、フレッシュなフルーツを挟み込んだフルーツどら焼き、お団子やわらび餅などが販売されています。テラス席でのイートインもOKです。
今回は東京どらくれーむの「クリームチーズ」と和どらの「こしあん」をチョイス。クリームチーズは一口食べるとオーストリア産のクリームチーズの香りがふわりと口に広がります。自家製のレモンピューレが入っており、レアチーズケーキのような美味しさです。こしあんは北海道産の小豆を使用したこしあんとしっとりとしたどら焼きの生地がベストマッチ。これぞ王道!な美味しさでした。
- 【今回の散歩コース】
- 九品仏駅→九品仏浄真寺→毛利豆腐店→It Wokashi(いとをかし)東京店→掌甘堂
九品仏駅は商店街に個性的なお店がたくさん!緑豊かな歴史ある九品仏浄真寺とあわせて気軽に寄り道しながらおさんぽを楽しみましょう。 - 【今回訪れたスポット】
- 「浄真寺」
〒158-0083 東京都世田谷区奥沢7-41-3
「毛利豆腐店」 〒158-0083 東京都世田谷区奥沢8-32-11
「It Wokashi(いとをかし)東京店」 〒158-0083 東京都世田谷区奥沢7-19-17
「掌甘堂」 〒158-0083 東京都世田谷区奥沢8-13-10
- 出演
島田勇矢(俳優、殺陣)
俳優、殺陣。大阪府出身。特技は殺陣。剣道2段・弓道2段。
「アバランチ(フジテレビ)」「真犯人フラグ(日本テレビ)」「警視庁ゼロ係〜生活安全課なんでも相談室〜(テレビ東京)」など映像出点多数。舞台「生贄姫-黄泉比良坂 -(Samurai Sword Performance Team)」をはじめ舞台出演も多数。
- 執筆者 栗本奈央子(ライター) 元旅行業界誌の記者です。子供のころから日本史・世界史問わず歴史が大好き。普段から寺社仏閣、特に神社巡りを楽しんでおり、歴史上の人物をテーマにした「聖地巡礼」をよくしています。好きな武将は石田三成、好きなお城は熊本城、好きなお城跡は萩城。合戦城跡や城跡の石垣を見ると心がときめきます。